最終更新日時: 2026年8月24日

この作品はフィクションです。登場人物・出来事は創作です。実在の人物・団体とは関係ありません。文化・風習の描写には地域差や家庭差があります。
第15話 アマミノクロウサギの夜
夜の観察では、ライトをむやみに当てず、車の速度を落とす。固有種のアマミノクロウサギが道端に現れると、二人は息を止めた。
車窓の闇は深く、ライトの届く範囲だけが舞台のように浮かんだ。ガイドが合図すると、全員が声を潜める。透は自分の鼓動まで動物を驚かせそうに感じた。
姿が消れたあとも、凪は森を見続けていた。『見られた、じゃなくて、会わせてもらった感じ』。その言い方を、透は作文に書き留めたいと思った。
丸い影は森へ消えた。透は『東京の友達にも話してみたい』と口にし、自分で驚いた。凪は友達が少ないことを笑わず、『一人に届けば、もう一人分守れるね』と言った。
宿へ戻る車内で、二人は撮影した写真を見返した。クロウサギは暗い影にしか写っていない。凪は削除せず、『見た時のことは覚えてる』と言う。透は写真より、声を潜めて並んだ時間のほうを鮮明に覚えていた。
写真には黒い影しかない。けれど凪と息を止めた数秒なら、東京へ戻っても言葉で伝えられる気がした。
次回:第16話へ続く



