最終更新日時: 2026年8月26日

この作品はフィクションです。登場人物・出来事は創作です。実在の人物・団体とは関係ありません。文化・風習の描写には地域差や家庭差があります。
第18話 ひとりの海
土盛海岸へ一人で来た透は、海が最初の日より広く、怖く見えることに気づいた。凪が教えた通り遊泳区域を離れず、珊瑚の欠片にも触れなかった。
波は一定に寄せては返し、怒りだけを特別扱いしなかった。透は濡れた砂に『ごめん』と書き、すぐ波に消されるのを見た。消える謝罪では足りない。
送信ボタンを押す指が震えた。返事が来なければと思うと怖い。それでも黙って相手に想像させるより、自分の気持ちを不格好なまま渡すほうを選んだ。
言葉にできないから黙ることと、言葉で相手を傷つけて逃げることは違う。透はスマートフォンに『言いすぎた。けど、あの話は勝手に言わないでほしかった』と打ち、何度も直して送った。
送信した後も、透はしばらく画面を伏せたまま海を見ていた。楽しかった記憶があるからこそ、返事を待つ時間が痛い。それでも黙って離れるよりはよかった。波打ち際を一度振り返り、透は一人で祖父母の家へ戻った。
返事を知らせる音は鳴らなかった。透は送った言葉を取り消さず、不安ごと抱えて朝を待った。
次回:第19話へ続く


