最終更新日時: 2026年9月2日

この作品はフィクションです。登場人物・出来事は創作です。実在の人物・団体とは関係ありません。文化・風習の描写には地域差や家庭差があります。
第26話 二人の地図
二人は歩いた場所を一枚の地図に描いた。ガジュマル、土盛海岸、マングローブ、工房、公民館。観光名所だけでなく、仲直りしたベンチや台風後に掃除した道にも印をつけた。
地図の余白へ、透はその日食べたものも描いた。鶏飯の椀、ミキの瓶、黒糖。凪の絵は大胆で、ガジュマルが道路を覆うほど大きい。
『来年、変わってたらどうする?』『また描けばいい』。凪は簡単に答えた。場所も人も変わるからこそ、続きを約束する意味があるのだと透は思った。
凪が地図の端に『次の夏』と書く。透はその隣へ小さな丸を描いた。約束と口にするには照れくさくても、二人には同じ意味だとわかった。
地図を折ると、凪の指と透の指が同じ角を押さえた。二人ともすぐには手を離さなかった。蝉の声に紛れ、凪が『忘れないでね』と言う。透は場所のことか自分のことか聞けず、『忘れない』と答えた。
折り畳んだ地図を鞄へしまう。『次の夏』の文字が、近づく別れを終点ではなく途中の印に変えた。
次回:第27話へ続く


