最終更新日時: 2026年8月18日

この作品はフィクションです。登場人物・出来事は創作です。実在の人物・団体とは関係ありません。文化・風習の描写には地域差や家庭差があります。
第09話 シマ唄の裏声
公民館から三味線に似た音が聞こえた。奄美の三線とシマ唄で、唄者は高い裏声を響かせる。集落ごとに節回しや言葉が違うこともあると、凪の伯母が教えた。
公民館には年齢の違う人たちが集まり、唄が一人から一人へ渡っていった。歌詞の意味を全部理解できなくても、声を返すことで場が続いていく。
透の囃子はかすれた。けれど隣の年配の男性が頷き、同じ節をもう一度歌ってくれた。凪は何も褒めず、ただ次の声を一緒に待った。その自然さが嬉しかった。
人前で声を出すのが怖い透は、囃子を促され固まった。すると凪が隣で先に歌う。透の小さな声は音に隠れ、それでも確かに輪へ加わった。
稽古が終わると、伯母が三線を透にも持たせてくれた。弦へ触れる指は震え、澄んだ音にはならない。凪が隣で一音だけ鳴らす。二つの不揃いな音に皆が笑い、透も今度は一緒に笑った。
耳の奥でシマ唄が続いていた。次の囃子はもう少し大きく返そうと決めると、透の胸は静かになった。
次回:第10話へ続く



