最終更新日時: 2026年9月3日

この作品はフィクションです。登場人物・出来事は創作です。実在の人物・団体とは関係ありません。文化・風習の描写には地域差や家庭差があります。
第28話 浜辺の贈り物
夕方、凪は布の小袋を持って現れた。中には自分で拾った物ではなく、工房で分けてもらった大島紬の端布で作った栞が入っていた。
浜辺では夕日が雲を桃色に染め、潮が満ち始めていた。凪は贈り物の説明ばかり早口で、透の顔を見ない。透はその珍しい様子を、からかわずに待った。
栞の細かな柄を指でなぞると、工房で見た糸の時間が蘇った。離れていても、本を開くたび同じ夏へ戻れる。透は『なくさない』ではなく、『使うよ』と約束した。
透は東京で選んだ青いボールペンを渡した。高価でも島らしくもないが、『手紙を書くとき使って』と言うと、凪は耳まで赤くして『透も書くなら』と答えた。
贈り物を交換した後も、二人は日が沈むまで浜辺に残った。東京と島で同じ月を見られること、手紙が遅れても怒らないことを決める。子どもっぽい約束だと笑いながら、どちらも一つも忘れまいとしていた。
栞を本に挟むと端だけが覗いた。東京でもこの色を見れば、今日の凪の声へ戻れると思った。
次回:第29話へ続く



